『年金だけでも暮らせます』(https://www.php.co.jp/books/detail.php?isbn=978-4-569-84205-9)の題名の本には、“老後を年金だけで暮らす「勝ち組」も、実は多く存在します。この人たちは何も特別なことはしていません。
・正確な情報を得て、現行の制度を活用すること
・出費を抑えて、現金を減らさない
この2つを徹底しているだけです。“(p.3~p.4)と書かれている。
現行の制度の活用は、第1章の『年金が「破綻」しないほんとうの理由』と第5章の『膨らむ介護・医療費のお悩み解決法』に書かれた内容に対応していると思われる。
今回は、このうち年金について考えてみる。
本に書かれている”年金が「破綻」しないほんとうの理由”
“国の年金制度は破綻しないか?”という問いに対して、本書では、“結論から言えば、年金は「破綻」しません。”と断定している(p.19~p.20)。
20ページには、破綻しない理由として、以下の3つが書かれている。
①年金は、今すぐ全額支払うものではない
②破綻しそうになれば、政府が助ける
③破綻しないための様々なテクニックがある
①の理由は、すぐに破綻しないという意味で、将来にわたって年金支給が保障されていることとは直接関係ないと思われる。
②の理由は、年金の財源が不足する事態になれば、国の負担割合を引き上げることによって、財源不足を補い、制度を維持できる可能性があるという意味である。
平成26年の財政検証では、あるレベル以上の給付額が確保されるという結論になっているが、結論の前提条件は経済成長である。そして、試算の前提とした経済状態でなければ、現在の制度を見直すという趣旨のことがレポートに書かれている。
この点については、“12.老後のお金の不安;将来の年金、1割減額で済むか?(厚生労働省の平成26年財政検証)”(https://mfworks.info/2018/11/30/post-170/)で詳しく説明した。
現状では、平成26年財政検証で想定したケースの中で、可能性が低いとした、経済状況が悪い場合にあたる。つまり、現状は、将来にわたった年金制度の維持が保証されている状態ではない。
経済成長が達成できなければ、国の負担割合を引き上げるに必要な財源が確保できないことになる。
それでも、年金制度を維持するために国の負担割合を引き上げるとすれば、税収を増やすことになり、結局は給付された年金から差し引かれる税金が多くなり、年金制度は形の上では存続していても、手取額が減ることになると思われる。
あるフィナンシャルプランナーによれば、年金の手取り額は1999年290万円に対して、2016年は257万円と33万円減少。その要因は、税金(高齢者向けの税優遇は廃止・縮小)と社会保険料の負担アップ(国民健康保険料アップ、介護保険導入)だということである(“3.老後のお金の不安 人気フィナンシャルプランナーの計算方法 その2”
https://mfworks.info/2018/09/27/post-133/)。今後も同じことが繰り返されていくと考える方が普通ではないかと思う。
そして、今後の消費税の増税も含めれば、少なくともこれまで以上に実質の手取額が減少すると予想されるし、このままの経済状況が続けば、制度自体が変質せざるを得ないと考えるのが妥当だと思われる。
そう言うと、③の「破綻しないための様々なテクニックがある」から、そう簡単には年金制度は破綻しないはずという反論が出てくるであろう。
③「破綻しないための様々なテクニックがある」とは、1. 保険料を上げる 2.給付額を減らす;マクロ経済スライド 3.支給開始年齢を引き合上げる 4.公的年金の加入者を増やすと書かれている。
これらは、いずれもこれまで取り上げてきた内容で、保険料収入を増やし、年金給付額を抑制する方策である (“13.老後のお金の不安;将来の年金制度(1)~受給開始年齢68歳、70歳まで働かなければならない?~” https://mfworks.info/2018/12/20/post-593/
“14.老後のお金の不安;将来の年金制度(2)~支給開始年齢引上げ~”
https://mfworks.info/2019/01/04/post-791/)。
現在の年金生活者に関係するのは、“2.給付額を減らす;マクロ経済スライド”のみである。その点から言えば、これから年金をもらう若い人たちと比べると、「年金だけでも暮らせ」る可能性は高いという結論にはなる。
ただし、可能性が高いのは言われなくても分かっていると言いたいし、知りたいのは、どの程度の可能性かということである。
年金だけで本当に生活できるのか?
著者の将来の年金についての基本的な考え方は、38ページの以下の部分だと思うので、以下に引用する
“今の年金受給者は「目減り」を心配しなくていい。
これから約30年間の間に、年金の実質的な支給額は2割前後減っているかもしれません。
あくまでも計算上、経済状況が激変している可能性があるからです。
ですから、はっきり言って将来のことはわかりません。”
将来のことは分からない点に関しては、本書の第4章“やっぱり投資はしてはいけない”の中に、長期投資のリスクとして、10年先は予想できない、
“これまでは世界の経済が右肩上がりに成長してきたため、結果的に「長期投資」をすれば儲かっできました。でも、これから先もそうでしょうか?・・・・・・・・・・・・・・・・・・
短期よりも長期の方が先を読みにくく、リスクが大きいのでそれが折り込まれるからです。“
と同様な考え方が書かれている。
『年金だけでも暮らせます』の著者は、今後30年の間に経済状況が激変する可能性があるから、長期の将来は読みにくいと書いている。
その考え方に立てば、
年金制度も同じように読みにくいのではないか、
むしろ現状は破綻する可能性が高いと考え得る状況ではないか、
どうして年金制度だけが破綻しないという結論になるのか不思議である。
そして、年金制度が存続していても、“年金の実質的な支給額は2割前後減った”場合にも、“年金だけでも暮らせ”る理由について書かれているのは、以下の1点だけと思われる。
“年金受給額の見通しはそれほど明るくない半面、すでに年金をもらい始めている人は、年金の目減りをそれほど心配する必要はないでしょう。
年金が目減りしたとしても、それほど生活費は必要ではないかもしれないからです。“
私には、本書で書かれている生活費削減を行えば、“年金の実質的な支給額は2割前後減”となっても、“年金だけで暮らせ”る印象をもてなかった。
その理由は、2つある。
一つは、繰り返しになるが、定性的な話ばかりで、将来的な収入と支出が数字として示されていないことが挙げられる。
数字の裏付けが書かれていないのは、“はっきり言って将来のことはわかりません”との反論が返ってきそうですが、それなら、言っていることに論理的な矛盾がある。
もう一つは、「現行の制度を活用すること」で、そのポイントである年金と次回に取り上げる医療・介護、
いずれもは心配しなくてもいいとあるが、30年もの間、制度変更がないと考えること自体、不自然ではないか?
「10年先は予想できない」からこそ、老後のお金の心配しているのに対して、
“将来のことは分からない」、「現行の制度を活用すること」によって
将来も年金で生活できるという回答は、論理的に矛盾していると思う。
将来を予測してアドバイスするのが専門家ではないかと思ってしまう。
読んでいただき、ありがとうございます。
最後に1曲、竹内まりや『いのちの歌』
『いのちの歌』は、NHK連続テレビ小説『だんだん』の劇中歌(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%84%E3%81%AE%E3%81%A1%E3%81%AE%E6%AD%8C)。
歌詞の中の”本当にたいせつなものは隠れて見えない ささやかすぎる日々の中にかけがえない喜びがある”のフレーズが好きです(https://www.uta-net.com/movie/124705/)。
Mariya Takeuchi(竹内まりや) – いのちの歌