12.老後のお金の不安;将来の年金、1割減額で済むか?(厚生労働省の平成26年財政検証)

老後資金を考える上で、今後、年金がどうなるかが、一番、心配な点である。

国民年金法で、5年ごとに年金の財政検証を行うこと、そして、年金給付額は、男子の平均的な手取額(標準報酬額-税金・社会保険料)の50%以上と定められている。ただし、給付額は手取額ではなく、税引き前の額。

財政検証は人口や経済状況などを条件設定して計算される。給付レベルは1割減で維持できるとの見込み。しかし、現在40歳の人が65歳(2055年)で貰える年金は約16万円という試算もある。

現在の個人あたりの年金支給額と世帯あたりの年金支給額については、調べた結果を紹介しているが(https://mfworks.info/2018/11/16/post-150/ https://mfworks.info/2018/11/24/post-152/)、今回からは、これからの年金がどうなるかについて調べた結果を紹介する。

最初に、「財政検証」とは何かを知っておいた方がよいと思われる。

(財政検証の意義・役割等 厚生労働省年金局 2018年6月22日

https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000212810.pdf

第7話 財政検証と財政再計算 https://www.mhlw.go.jp/nenkinkenshou/comics/pdf/episode_07_high.pdfl)。

国民年金法では、少なくとも5年ごとに、保険料と国庫負担額、および年金事業の財政収支の現況と見通し(財政検証)を作成しなければならないと定められている。

また、年金の給付水準について、国民年金法には、年金給付額を、「当該年度の前年度における男子被保険者の平均的な標準報酬額に相当する額から当該額に係る公租公課の額を控除して得た額に相当する額」に対する比率で、「百分の五十を上回ることとなるような給付水準を将来にわたり確保する」、

つまり、男子の平均的な標準報酬額から税金・社会保険料を引いた手取額の50%以上、と定められているようだ。

直近の財政検証は、平成26年に行われている

(将来の公的年金の財政見通し(財政検証) https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/nenkin/nenkin/zaisei-kensyo/index.html

国民年金及び厚生年金に係る財政の現況及び見通しー 平成26年財政検証結果 ー https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/nenkin/nenkin/zaisei-kensyo/dl/h26_kensyo.pdf)。

目的について、「公的年金の財政検証の考え方」として、長期の社会経済情勢は変動する可能性があるため、「公的年金の長期にわたる財政の健全性を定期的にチェック」(財政検証)を実施したと書かれている。

「長期」とは、概ね100年間、「健全性」とは、財政フレーム(マクロ経済スライド、後述)が機能して、給付と負担の均衡が図られること、「定期的」とは、少なくとも5年に1度の意味である。

具体的な目的として、経済社会の変化について合理的な前提を設定した上で、

(1)長期的な給付と負担の均衡が確保されるか、および

(2)均衡が確保される給付水準がどの程度になるかを検証することと書かれている。

最初に、検証をする上での前提を確認していこう。

前提は、人口、労働力、経済、その他の制度の状況等関する前提の4つある

(1)人口;国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口」の予測を基にする。

(2)労働力;「労働力需給推計」((独)労働政策研究・研修機構)を基に、

「労働参加が進む」ケースと「進まない」ケースを設定。

(3)経済;長期的な経済状況を見通す上で重要な全要素生産性上昇率を軸とした、

複数ケース(A~Hの8ケース)を設定。

(4)その他の制度の状況等関する前提;被保険者数、年金受給者数、保険料納付率など。

人口の前提は意図的に設定できるものではないし、制度に関する前提は制度変更があれば変わるものである。

労働参加が「進む」は、高齢者等の労働市場への参加が進んで、2030年まで6000万人前後の労働力人口を維持でき、経済成長する場合、「進まない」は労働力人口が減少し続け、ゼロ成長の場合である。

「労働参加」が進む、進まないは、政府の政策も影響するだろうが、基本的には経済状況によって決まると考えられる。

そうなると、前提条件のうち、人口、労働力、制度状況はいずれも成り行き任せの部分があり、主に経済の前提条件の適切性を確認した上で、検証結果を見ていけばよいのではないかと思われる。

財政検証において、年金支給額の多少は、「所得代替率」によって数値化される。

所得代替率は、下式で計算される。

所得代替率=年金月額/手取り賃金(ボーナス込み年収の月額換算値)

つまり、現役世代の平均手取り収入(可処分所得)に対して、高齢者モデル世帯が受給できる年金額(名目年金給付額)の割合ということになる。

平成26年(2014年)の所得代替率は「62.7%」ということである。

(国民年金及び厚生年金に係る財政の現況及び見通し(概要)

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/shakaikondankai/kaisai/dai02/02siryou1.pdf

分子にだけ含まれる所得代替率の『税金・社会保険料』

http://www.office-onoduka.com/nenkinblog/2009/06/21_1.html

平成26年の財政検証における経済の前提はA~Hの8ケースあり、以下のようなシミュレーション結果になっている。

ケース 労働参加 物価上昇率 賃金上昇率 運用利回り 所得代替率(2040年頃)
進む 2.0% 2.3% 3.4% 50.9%
進む 1.8% 2.1% 3.3% 50.9%
進む 1.6% 1.8% 3.2% 51.0%
進む 1.4% 1.6% 3.1% 50.8%
進む 1.2% 1.3% 3.0% 50.6%
進まない 1.2% 1.3% 2.8% 45.7%
進まない 0.9% 1.0% 2.2% 42.0%
進まない 0.6% 0.7% 1.7% 35%~37%程度

賃金上昇率と運用利回りは、物価変動を考慮した数値。

所得代替率は、後述するマクロ経済スライドによる年金額調整が考慮されている。

「労働参加が進む」A~Eの場合、2040年(平成52年)頃の所得代替率はほぼ50%である。現在と比較して、10%程度低下する結果である。

一方、「労働参加が進まない」F~Gのケースでは、所得代替率は50%を下回る。

つまり、「労働参加が進まない」と、所得代替率は50%を下回り、「百分の五十を上回ることとなるような給付水準を将来にわたり確保する」ことができなくなる。

(「年金の財政検証による将来見通し 所得代替率50%維持には経済再生が不可欠」https://www.mizuho-ri.co.jp/publication/research/pdf/insight/pl140605.pdf

そこで、

「所得代替率50%を下回る場合は、50%で給付水準調整を終了し、

給付及び負担の在り方について検討を行うこととされているが、

仮に、財政のバランスが取れるまで機械的に給付水準調整を進めた場合の数値。」

と注釈がついている。

ケースH(物価上昇率0.6%、賃金上昇率0.7%、運用利回り1.7%)では、

「(※)機械的に給付水準調整を続けると、国民年金は2055年度に積立金がなくなり完全な賦課方式に移行。

その後、保険料と国庫負担で賄うことのできる給付水準は、所得代替率35%~37%程度。」との注釈がつけられている。

マクロ経済スライドによる給付水準の調整とは、「社会情勢(現役人口の減少や平均余命の伸び)に合わせて、年金の給付水準を自動的に調整する仕組み」のことである

(「マクロ経済スライドってなに?https://www.mhlw.go.jp/nenkinkenshou/finance/popup1.html)。

ケースGの場合、マクロ経済スライドによる給付水準の調整によって、

平成50年度に所得代替率が50%に到達する見込みです。

仮に、その後も財政のバランスが取れるまで機械的に給付水準調整を進めた場合、

報酬比例部分は平成43年度、基礎年金部分は平成70年度で調整が終了する見通しで、

所得代替率は42.0%、平成70年度の年金額は21.6万円となる見込みです。

との説明もされている。

(「所得代替率の見通し~実際、「どのくらい」受け取れるのか」 https://www.mhlw.go.jp/nenkinkenshou/verification/index.html)。

財政検証に対する疑問(特に所得代替率)や将来もらえる年金の試算結果も公開されている。

40歳の人が65歳(2055年)でもらえる年金は、平均月収40万円の場合、16万3470円と試算されている。

(本当にもらえる年⾦はいくらか【最新の財政検証を元に試算した結果】 http://www.partnerc.link/2018/03/19/post-6728/)。

驚愕!今30代の年金月額は15万円程度、ウソだらけの年金の本当の受け取り額は? https://diamond.jp/articles/-/61167

厚労省の年金計算式のカラクリ 「所得代替率」公約の虚像

https://www.news-postseven.com/archives/20161101_461618.html

え?何が起きた?厚労省が新聞社に噛みついた!

https://minna-no-nenkin.com/nenkin-news/kourousyou_kougi/)。

いずれにしても、平成26年(2014年)の所得代替率は「62.7%」ということなので、労働参加が進んだ場合(ケースA~E)であっても50%程度なので、将来的には少なくとも10%は低下することになる。

ただし、実際にはケースF~Hで今後推移していく可能性が十分にあるのではないか。

ケースGの場合、財政のバランスが取れるまで機械的に給付水準調整を進めた場合、

平成70年度(2058年度)の年金額「21.6」万円の時の、

現役男子の手取収入は「51.5万円」となっている。

一方、検証時、すなわち平成26年度(2014年度)において、

現役男子の手取収入は「34.8万円」、年金額は「21.8万円」となっている。

年金額は維持されるというシミュレーションだが、現役男子の手取り収入は、その間に約1.5倍になっている。年金額は維持されるとしても、実質的な購買力は低下しているのではないかと不安になる。

また、シミュレーションの結果は前提条件の置き方によって変わってくる。

ケースA~Hでは、すべて、物価、賃金、運用はいずれも上昇し、しかも連動するケースである。物価は上昇するが、賃金は連動して上昇しないケースとか、運用利回りが上昇せずに低下するケースは想定されていないが、本当にそれでよいのだろうか?

こうして見ると、年金支給水準が低下することは間違いないとしても、本当に所得代替率50%維持できるとは思えないし、制度変更によって50%維持できるとしても、それは名目上であって実質的な手取水準が低下せざるを得ないと考えておいた方がよさそうに思う。

2019年には、新たな財政検証結果が発表される。既に会議が始まっており、次回に議論の内容を紹介したい。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

最後に1曲、Owl City&Carly Rae Jepsenの ”Good Time”

アウル・シティー (Owl City) は、米国のシンガーソングライター、アダム・ヤング(Adam Young)によるソロ・プロジェクト (https://www.universal-music.co.jp/owl-city/)

繰り返される”It’s always a good time”のフレーズが印象的。

歌詞の和訳もある(https://ameblo.jp/moai0920/entry-11311052280.html)。

Owl City & Carly Rae Jepsen – Good Time

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする

error: Content is protected !!