13.老後のお金の不安;将来の年金制度(1)~受給開始年齢68歳、70歳まで働かなければならない?~

老後資金計算で一番気になる年金については、5年間隔で国の財政検証が行われる。今、H31の年金財政検証が進んでいる。支給額減額の仕組み(マクロ経済スライド制度)、受給開始年齢見直し、パート加入や65歳以上の雇用推進が議題。

その中で、若者に関連するのは、パートの年金加入制度と、私的年金(確定給付年金、iDeCo等)の奨励。前者は年金を支える人を増やす仕組み、後者は公的年金削減分は自助努力で補完の意味。

どれも年金破綻回避の方策に見える。

前回、5年ごとに行われる年金の財政検証の制度を紹介した(https://mfworks.info/2018/11/30/post-170/)。今回と次回は、H31年の検証結果がどうなるか、公開されている資料から推測する。

H26年検証で結論づけられた内容は、5年を経て既に破たんしているように見える。

現状の経済状況をもとにH26検証のシミュレーションを見ると、大前提の“労働参加が進む”の条件が実現できていない。そうなると、所得代替率50%を維持できず、したがって、年金制度の改革は必須となるとの結論になる。。

それでは、H31年(2019年)の検証結果はどうなるだろうか?

今年の4月から厚生労働省のホームページに、社会保障審議会(年金部会)の6回の会議の議題と資料、議論の内容が掲載されている(https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-hosho_126721.html)。

議題は、以下のようである。

第1回 2018年4月4日(平成30年4月4日)

(1)  年金部会における議論の進め方について (2)これまでの制度改正のレビュー

第2回 2018年6月22日 (平成30年6月22日)

(1)平成28年度公的年金財政状況報告について(2)財政検証の意義・役割等について

第3回 2018年7月30日(平成30年7月30日)

(1)諸外国の年金制度の動向について

(2)年金額の改定ルールとマクロ経済スライドについて

第4回 2018年9月14日(平成30年9月14日)

(1)被用者保険の適用拡大について

(2)年金財政における経済前提に関する専門委員会について(中間報告)(3)その他

第5回(平成30年10月10日)

(1)雇用の変容と年金(主として高齢期の就労と年金に関して)

第6回(平成30年11月2日)

(1)雇用の変容と年金(高齢期の長期化、就労の拡大・多様化と年金制度)

会議資料を読むと、2019年検証結果は予想することができる。

1回目の会議で、「2018年の財政検証の意義」として、「景気循環等の影響で新たな改定ルールが実際に適用される可能性を踏まえた上で」と書かれている。

計算の前提条件の経済条件は、C,E、Gの3通りのようである。

H26年の検証の時のC、E、Gの前提条件は以下のようである。

ケース 労働参加 物価上昇率 賃金上昇率 運用利回り 所得代替率(2040年頃)
進む 1.6% 1.8% 3.2% 51.0%
進む 1.2% 1.3% 3.0% 50.6%
進まない 0.9% 1.0% 2.2% 42.0%

受給率50%以上維持するためには、労働参加が進み、物価と賃金が上昇することを前提とせざるを得ないようである。

「労働参加が進まない」場合には、所得代替率は法的な下限値である50%を割ることになる。そうなると、受給率50%以上を維持するための制度改革が必須となる。

議題を見ると、制度改革することが既に前提になっているように見える。

つまり、このまま行くと破綻するので、今のうちに制度改革しておこうという意図が見える。

制度改革と言ってもできることは、支出を減らすこと、もう一つは、収入を増やす、という当たり前のことしかないのでは?

支出を減らす具体策は、3つ。

支給額の減額ルール;マクロ経済スライド制度の見直し(既に実施されている)

受給開始年齢の見直し;財務省の資料では68歳から支給のように見える

受給開始年齢を遅くすること(繰下げ支給)の推進や優遇策

収入を増やす具体策は、1つ。

被保険者の適用拡大;パートの加入

保険料収入の増加;65歳以上の雇用促進

高齢者の雇用推進が柱になるが、それが『雇用の変容』という言葉にすり替えられているように見える。

こうして見ると、2019年の財政検証は、『雇用の変容』による経済成長を前提として、50%以上を維持できるという辻褄合わせをしながら、将来的な制度変更の布石を打とうとする内容になると思われる。

年金受給の観点からは、支給額の減額と支給開始年齢の引き上げは既に視野に入っている。

そして、前提となる所得代替率50%を維持するための経済成長には、65歳以上の高齢者の雇用と女性の労働の促進を推進することになる。

このあたりは、『人手不足』解消を表にした政策と基本的には同じなので、議論が見えにくい。

ただし、『所得代替率50%』といっても、手取額ではない。支給額から引かれる税金と社会保険料が増額されれば、『所得代替率50%』が維持されると言っても、実際の手取額は減額されることになる。これが、これまでの実際である。

『所得代替率50%』が維持されると言っても、既に名目で減額されると言っているのも同じで、手取額で見れば、さらに減額されると思っていた方がよい。

次回は、各回の議論をもう少し詳しく見ていきたい。

読んでいただき、ありがとうございます。

最後に1曲、元ちとせの『ワダツミの木』

「ワダツミ」は、海の神のこと。

歌詞に、「星に花は照らされて 伸びゆく木は水の上」とある(http://j-lyric.net/artist/a00328b/l0015e2.html

元ちとせ – ワダツミの木

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