25.『年金だけでも暮らせます』という本に書かれている介護費用の話

『年金だけでも暮らせます』(https://www.php.co.jp/books/detail.php?isbn=978-4-569-84205-9)の題名の本には、“老後を年金だけで暮らす「勝ち組」も、実は多く存在します。この人たちは何も特別なことはしていません。

・正確な情報を得て、現行の制度を活用すること

・出費を抑えて、現金を減らさない

この2つを徹底しているだけです。“(p.3~p.4)と書かれている。

今回は、現行の制度の活用のうち、第5章の『膨らむ介護・医療費のお悩み解決法』を中心に、介護費用について考えてみる。

この本の結論は、38ページの以下の部分だと思うので、以下に引用する

“第5章で詳しく解説しますが、医療や介護もそれほど不安に感じなくていいでしょう。“

介護費用について書かれていること

『年金だけでも暮らせます』という本に書かれている介護費用についての記載を抜き出してみた。

197ページからの”第5章 膨らむ介護医療費のお悩み解決法 転ばぬ先の 「貯金」のススメ“の最初の“介護士のリアル 介護のお金は、どのくらいかかるか?”には、“介護にかかる費用は、あなたが想像するより低い”と書かれている。

そして、199ページには、”同じアンケートで実際にかかった費用がどれくらいだったのか介護を経験した人に聞いています。それを見ると一人平均で約547万円。つまり、二人とも介護が必要になっても平均すると2人合わせて1100万ほどしか、かからないそうです 。”と具体的な数字が挙げられている。

200ページには、2000年4月1日から運用がスタートした介護保険制度の運用が開始されたと書かれている。

201ページには介護保険制度の利用として、“例えば要介護5の寝たきりの方が36万円の介護サービスを受けたとしても、・・・・・・(中略)・・・・・・、けれども、介護保険を使えば、普通の収入なら1割の3万6000円の自己負担ですみます。(中略)1割負担で月3万6000円の自己負担なら1年間で43万2000円。7年間寝込んでも302万4000円しかかかりません”、“実際に介護を経験した方は、こうした制度を使っているので、自己負担額が低いのでしょう”(202ページ)と書かれている。

230ページ以降には、介護に関する今後20年間の技術の進歩が予測されている。

230ページには、“20年後は「介護ロボット」の世話になる?”と題して、ロボット技術の進歩が書かれており、232ページには、“今介護の現場では、介護人材の不足が深刻になっています”が、“介護がどんどん機械化してくれれば、主婦がパート感覚でちょっとだけ働くということも容易になるでしょう。”と書かれている。

また、233ページの“iPS細胞により介護人口が激減する”と題する部分では、“介護を劇的に変えるのは、機械だけではありません。医学の分野も、20年の間に飛躍的に進歩し、誰もが長生きできる時代が到来するかもしれません”、“そうなると、元気で働けるお年寄りが増え、介護人口そのものが減っていく可能性もあります。”(234ページ)と書かれています。

約すれば、今の日本の介護制度が「維持されれば」、介護費用はそれほど心配はいらないし、いざという時のためには、1500万円の貯蓄があれば十分だということになる。

介護費用の説明で、気になること3点

上記した介護費用についての話も、医療費の時と同じように、いくつか気になる点があります。

気になる点(1)”1100万程しかかからないそうです”

介護にかかる費用については、以前に現状を紹介した(15.老後のお金の不安;最低でも介護費用500万円は見ておいた方がよい。https://mfworks.info/2019/01/19/post-146/)が、本書の1100万円の根拠と同じである(平成27年度 生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査」http://www.jili.or.jp/press/2015/pdf/h27_zenkoku.pdf)。

ただし、これは平均の話。

1カ月当たり介護に要した費用(公的介護保険サービスの自己負担費用を含む)の平均は、7.9万円となっている。

しかし、分布を見ると、“15万円以上“が最も多い(16.4%)。

次に、”1万〜2万5千円未満“(15.1%)、その後に、”5万〜7万5千円未満“、”2万5千〜5万円未満“と続いている。

前にも書いたが(15.老後のお金の不安;最低でも介護費用500万円は見ておいた方がよい。https://mfworks.info/2019/01/19/post-146/)、介護費用は個人差が大きく(年齢差なのかもしれないが、16.4%に入る可能性が高いようであれば、1100万円ではとても足りない。

気になる点(2)7年間寝込んでも302万4000円しかかかりません。

要介護度の最高ランク”要介護5”の人が、”36万円の介護サービスを受けたとしても介護保険を使えば普通の収入なら1割の3万6000円”と書かれている。

しかし、必要な介護費用という点では、説明不十分と思う。

3万6000円という金額は、要介護度5の人が受けられる介護サービスの上限額を言っているだけで、これ以上の介護費用は不要ということではない。

もう少し正確に言うと、”要介護5”は寝たきりで自分一人では生きていけない状態である。

公的な介護制度で受けられるサービス内容は決められている。また、介護職員が慢性的に不足している状況で、上限額まで希望のサービスが受けられるどうかも分からない。

したがって、高齢者2人世帯や一人世帯では、介護サービスだけで”要介護5”の人が生活できるわけではなく、同居家族など身近に介護できる人がいて、介護サービスで不足する部分を補わないと生活するのは難しい状態である。

家族が仕事などで面倒を見ることができなければ、施設入居を考えることになるが、そうなると介護費用はとても”302万4000円”では済まないと考えた方がよい。

本書には、介護ロボットが使われるようになれば、介護する職員の負担が減り、現在は仕事についていない介護資格を持つ人が介護現場に参画しやすくなり、職員不足は解消するはずというような趣旨のことが書かれている。

また、”iPS細胞”の技術が進展すれば、介護人口は激減すると書かれています。

しかし、いずれも20年先の話で、現在の年金生活者が、技術の進歩の恩恵を受けられるかどうか分からない。仮に実用化されたとして、近い将来、医療費や介護費用が下がるかというと言えないと思われる。

ひとつは、介護ロボットや”ips細胞”技術が、手の届く範囲の金額で利用できるかどうかです。

もう一つは根本的な懸念ですが、介護を十分受けられることや、”ips細胞”技術で身体機能が回復するという状況になると、今以上に”長生き”リスクが問題になってくると予想されます。

仮に、介護費用や医療費がいまほどかからなくなったとしても、生きる期間が長くなれば、その分、生活費は今より必要になります。そう考えると、トータルで見ると、必要な老後資金はむしろ増えると考えた方が実際に近いのではないかと思える。

気になる点(3)介護保険制度の利用

介護保険を利用すれば、1割負担で希望する介護サービスを受けられるかというと、実際には受けられる介護サービスは、”要介護度”によって、種類、回数が制限されています。

現在、介護サービスを受けるためには、申請して”要介護度”の審査を受ける必要があります。”要介護度”の審査が厳しくなってきており、思い通りの介護サービスが受けられるかは分からないと思います。

介護制度はそのままであっても、運用次第で制度が実質的に変質しているということが起こり得ます。

さらに、医療費と同じ話ですが、一般的な高齢者の介護保険利用時の負担割合は1割です。

”7年間寝込んでも302万4000円しかかかりません”は、利用者にとってもありがたい制度だが、実際には3024万円かかっており、国は、ほぼ3000万円を負担していることになる。

この制度が今後20年~30年の間そのままの形で維持できるとは思えません。

医療と介護にかかる費用のまとめ

『年金だけでも暮らせます』の220ページには、医療費と介護費用について、以下のように書かれている。

”老後に必要となる最も大きな費用は介護費用と医療費。

そしてここまで本書をお読み進みで頂いた方は介護費用は一人平均550万円二人で1100万円。医療費は二人で200万円から300万円を用意しとけばいいということが分かったと思います。この二つを合わせると二人で1300万円から1400万円。少し余裕を見て1500万円位は、老後の介護費用と医療費のために手をつけずにとっておきましょう。

もし介護が長引いて1500万円が底をつくということになっても持ち家があるなら最後は持ち家を売って施設に入るという手もあります。

1500万円といえば40年間働いた退職金でまかなえる金額。これはいざという時のためにとっておいて、日常生活はこれまでの蓄えと年金でやっていく 。”

この部分も気になる内容である。

”年金だけでも暮らせ”るのは、現在既に年金生活している人と本書の冒頭で書かれている。

年金生活は既に退職金を受け取っているから、少し余裕を見た1500万円という金額は貯蓄額の意味になる。高齢者の貯蓄の平均額は2200万円だが、中央値は1600万円である。つまり、貯蓄には手をつけず、年金だけで暮らしなさいという意味になる。

ちなみに、退職金で1500万円もらえる時代は終わりつつあることを付け加えておきたい(17.老後のお金の不安;老後資金不足を補う資産 ~貯蓄、退職金~

https://mfworks.info/2019/02/16/post-168/)。

もう1点、”介護が長引いて1500万円が底をつくということになっても持ち家があるなら最後は持ち家を打って施設に入るという手もあります”と書かれている。

調査によれば、高齢者の大半は持ち家なので、確かに、この手が使える。

実際、我が家があるのは住宅地の一角だが、最近、あちらこちらで空き家になった持ち家が売られ、分譲住宅として販売されているのを見かける。もう既に行われている手である。

それでは、10年後も、持ち家を売るという手が使えるだろうか?

そもそも現在でも買い手のつかない土地もあると思います。

また、買い手のいる地域であっても、10~20年後は今より住宅需要は減っており、そうなると、”持ち家を売る”ことが、最後の手となりにくくなっておくと思われる。

この本の言う通り、現在の年金生活者は、現時点では年金だけで暮らすことができるかもしれないが、20~25年先も年金だけで生活できるかどうかまでは、この本では十分に説明されているとは思えません。

次回は、年金支給額が約30年間で2割前後減った場合に、本当に年金だけで生活できるのか金額的なシミュレーションを行ってみたい。

読んでいただき、ありがとうございます。

最後に1曲、井上陽水 『MAP』

NHKの番組「ぶらタモリ」のエンディングテーマ。

歌詞は、http://www.kasi-time.com/item-51014.html

井上陽水 『MAP』

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