24.『年金だけでも暮らせます』という本に書かれている医療費の話

『年金だけでも暮らせます』(https://www.php.co.jp/books/detail.php?isbn=978-4-569-84205-9)の題名の本には、“老後を年金だけで暮らす「勝ち組」も、実は多く存在します。この人たちは何も特別なことはしていません。
・正確な情報を得て、現行の制度を活用すること
・出費を抑えて、現金を減らさない
この2つを徹底しているだけです。“(p.3~p.4)と書かれている。

現行の制度の活用のうち、第5章の『膨らむ介護・医療費のお悩み解決法』を中心に考えてみる。
この本の結論は、38ページの以下の部分だと思うので、以下に引用する
“第5章で詳しく解説しますが、医療や介護もそれほど不安に感じなくていいでしょう。“

今回は医療費を取り上げる。

医療費について書かれていること

医療費についての本書の記載を抜き出してみた。

210ページの”医療費のリアル 老後の医療費は、どれくらいかかるか?”にも、38ページと同じ内容が書かれている。

”介護費用と並んで老後に心配なのが医療費でしょう。
しかし医療費については今の日本の医療制度が維持されれば老後にそれほど多額の医療費を用意しておく必要はないでしょう。
なぜか日本の健康保険制度は非常に優れているからです。”

日本の健康保険制度について、136ページに、
”公的な医療保険で、ほとんどの治療費はカバーできる”という見出しで、以下のような説明がされている。
”日本が誇る健康保険(アメリカには日本の国民健康保険のような制度はない)は、

・・・・・・(中略)・・・・・・国民の誰もが病気になったら治療を低料金で受けられる優秀な制度であり、病気にならないようにと健康診断まで行なってくれます。・・・・・・(中略)・・・・・・.

つまり病気になっても医療費の7割は健康保険が負担してくれるのです。
しかも、100万円の治療を受けた場合でも、収入に応じて自己負担額が9万円くらいになる「高額療養費制度」という制度もあります(申告することで90万円以上が還付)。”と書かれている。

そして、高齢者の医療費について、218ページに、
医療費は公的保険を軸に考えると思ったほどかかりません。
特に七十歳を過ぎてリタイアすると自己負担しなければならない金額の上限そのものが低くなります。
しかも長く病院に入院させてはくれないのですから老後にかかる医療費は二人で200万円から300万円用意しておけば十分でしょう。”とあり、

そして、”高齢者で入院が長引きそうなら、一定期間は病院にいても、その後は介護施設等に移送されるケースが多くなっています。”(216ページ)と書かれている。

医療費の自己負担分について、212~213ページには、”高額療養費制度の利用で医療費の自己負担はかなり少なくなる”という見出しで、以下のような事例で説明されている。

”例えば八十歳の一般的な収入のご夫婦が入院でそれぞれ月100万円の治療を受けるとします。合計で月200万円の医療費ですが、高額療養費制度の世帯合算を使うと、自己負担は二人合わせて57600円以上にはなりません。”

医療費の説明で、気になること3点

これだけ読むと、なんだそんなにかからないのかと思ってしまいますが、本当にそうなのか、書かれていることで、いくつか気になる点があります。

気になる点(1)保険適用されない費用

一つ目は、”公的保険を軸に考えると思ったほどかかりません”という考え方です。

書かれている医療費の金額は、国民健康保険や後期高齢者医療保険の制度を説明しているだけであって、実際にその金額で済むと言うわけにはいかないと思うからです。

この本には、公的保険でカバーされないお金については、まったく触れられていません。

一番気になるのは部屋代です。

4人部屋であれば保険の範囲内ですが、80歳を超えて4人部屋で過ごすことはかなりつらいことです。

例えば、洗面台やトイレは共用ですし、スペースも狭い。

短い期間であれば我慢できるかもしれませんが、高齢になれば、入院期間も長くなります。

個室を希望すれば、部屋代は少なくとも1日1万円はかかります。

しかし、公的保険の対象にはならないので、仮に1カ月入院したら(本書216ページに退院患者の平均在院日数31.9日と書かれている)、医療費とは別に30万円の費用がかかります。

気になる点(2)施設入居費用

長く入院させてくれないので費用はそれほどかからない、施設に移らなければならないと書かれています。

確かに治療が完了すれば退院せざるを得ないですが、入院前と同じように自宅で生活できる状態での退院であればよいですが、高齢者であればあるほど、自宅生活が困難な状態で退院する可能性が高いと思います。

一番気になるのは、”施設入居”のことです。

まず、そんなに簡単に施設入居先が見つからないことです。

退院が見えてきた時点から退院までの短期間に入居できる施設を見つけなければなりません。

その場合、費用の安い公的な施設である特別養護老人ホームに入居することは難しい。

まず、空きがなかなかないこと。

もう一つは、入居資格である要介護3以上の認定を得られるかどうか、認定が得られそうであっても、認定までに月単位の時間がかかります。

ですので、一般的には、民間の介護付有料老人ホームに入居せざるを得ない状況にあると思います。

入居先が見つかったとしても、施設入居には費用がかかります。施設入居は介護に関わることですが、この本にはどこにも具体的なことが書かれていませんが、介護付有料老人ホームであれば、月20万円程度はかかると思います。

高齢者の場合、医療費は公的保険でそれほど費用はかからなかったとしても、退院後にかかる費用も含めると結構な金額になるのではないでしょうか?

気になる点(3)公的医療保険制度が現在のままで20~30年間も維持できるのか?

本書の”多額の医療費を用意しておく必要がない”という結論は、”今の日本の医療制度が維持される”ことが前提となっています。

75歳以上が対象者の後期高齢者医療保険の制度での患者の医療費の負担割合は、多くは1割、つまり、実際にかかった費用の1割です。

家計調査での世帯主70歳以上の世帯の保健医療費は月約1万5000円です。

その半分が公的保険による医療費だとしたら、年間約9万円になります。

年間9万円の支払いということは、実際にかかった医療費は90万円ということです。

つまり、90万円-9万円=81万円は、国が負担していることになります。

本書での医療費負担の話は、”現在の制度が維持されるとすれば”を前提の話ばかりで、

これからの公的医療保険制度が維持できるかどうかについては書かれていません。

確かに、日本の健康保険は、”国民の誰もが病気になったら治療を低料金で受けられる優秀な制度であり、病気にならないようにと健康診断まで行なってくれ”る”優秀な制度”かもしれません。

しかし、国の財政や高齢者数の多さを考えると、この制度が今後20年~30年の間そのままの形で維持できるとはとても思えません。

仮に自己負担の割合が2割なり、3割になれば(それでも、素晴らしい制度と思いますが)、年金だけで本当に賄えるのでしょうか?

ちなみに、本書では、日本の国民健康保険制度はアメリカにはない日本が誇るものと書かれています。しかし、先進国の中では、アメリカは例外であって、欧州の先進国も優れた医療保険制度があります(https://www.kouiki-kansai.jp/material/files/group/3/1378455555.pdf)。

次回は、介護費用について考えていきます。

読んでいただき、ありがとうございます。

最後に1曲、JFDRの”White Sun”

JFDR(Jófríður Ákadóttir ヨフリヅル・アウカドッティル)は、アイスランドの女性歌手

https://qetic.jp/music/jfdr-feature/240027/)。最近、日本ツアーが行われた(http://www.inpartmaint.com/site/25761/)。

”White Sun”の歌詞の冒頭部分は、”今夜、太陽は白い、明日は燃えるような静寂の中で赤く明るいだろう。”(https://genius.com/Jfdr-white-sun-lyrics)。不思議な雰囲気のある曲。

JFDR – White Sun

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