26.節約したら、2000万円の貯蓄無しで、年金だけで暮らせるか検証してみた。

最近の新聞記事(2019年6月4日の朝日新聞朝刊)に、金融庁の報告書『高齢社会における資産形成・管理』(https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20190603/01.pdf)の内容として、老後の蓄えは、1300万~2000万円が必要という記事がある。

一方、『年金だけでも暮らせます』(https://www.php.co.jp/books/detail.php?isbn=978-4-569-84205-9)という本の結論は、現在既に年金生活に入っている高齢者は、『年金だけでも暮らせます』というものである。そして、老後を年金だけで暮らす「勝ち組」人たちは、以下の2つを徹底しているだけであると書かれている(p.3~p.4)

・正確な情報を得て、現行の制度を活用すること

・出費を抑えて、現金を減らさない

また、上記新聞記事には、フィナンシャルプランナーの指摘として、『まず必要なのは、足元の支出の見直し』で、現役世代は保険料、通信費や住宅ローンの見直し、高齢期は、車が不可欠かどうかの見極めが大切だと書かれている。

そこで、出費を抑えたら、本当に年金だけで暮らせるのか、検証することにした。

高齢者世帯で出来る出費の切詰め方

高齢者世帯の生活費の現状

『年金だけでも暮らせます』のp.87以降には、『第3章 生活の「意識改革」で出費を抑えなさい -年金生活の大原則』の中のお金の意識改革②「今のリアルな生活を直視・改善する」(p.101)の、 “こんなにある!生活費と固定費の落とし穴”( p.109以降)では、具体的な出費削減方法(節約方法)が書かれている。

書かれている節約方法は、高齢者の話と、未年金生活者の話が区別なく書かれている。したがって、年金生活に入った高齢者には難しい節約方法も書かれている。

そこで、高齢者が節約可能な項目と、難しい項目の仕訳をすることにした。

まず、年金生活に入った時、夫婦2人で、毎月どのくらいの生活費が使っているか、公表されている数字を下に示した(表1)(詳しくは、18.老後のお金の不安;毎月の生活費はいくらかかるか? https://mfworks.info/2019/03/04/post-543/

表1

  世帯主年齢(歳)
    65~69    70~
消費支出     32,016     32,016
消費

支出

食品     70,058     68,065
住居     14,853     14,115
光熱・水道     21,635     21,191
家具・

家事用品

    10,273       9,570
被服履物       7,465       6,850
保健医療     14,995     14,850
交通通信     28,524     23,998
教育         458         360
教養娯楽     24,541     23,162
その他支出     54,898     52,466
合計   247,701   234,628

(注)”世帯主の年齢階級別家計支出(二人以上の世帯)-2017年-”、http://www.stat.go.jp/data/kakei/sokuhou/nen/pdf/gy02.pdf、から抽出。

高齢者が出来る節約は?

『年金だけでも暮らせます』という本の中では、

食費、日用品費、衣類・美容費、娯楽費、交通費、教育・教養費、医療費、交際費、こづかい、住居費、電気代・ガス代、水道代、通信費(携帯代を含む)、民間保険料について

意識改革の方法が書かれている。

以下では、表1の各項目について、高齢者が節約できるかどうか見ていくことにする。

まず、非消費支出は、税金や社会保険料などで節約することは難しいと思われるので、消費支出が削減対象になる。

消費支出の中で最も金額の多いのは、食品(食費)である。

食品(食費)は約7万円、1日に直すと、約2300円になり節約の余地はあると思われる。

しかし、今後、食品の単価は維持されるとしても量目が減ったりして、実質的に上昇すると思われる。

また、高齢になると自分で食事を作ることができなくなり、惣菜の購入や宅配で済まさざるを得ない場合も出てくる。その場合には、1日一人1000円、二人で1カ月60000円はかかると思われる。

ここでは、ひとまず、節約が難しいと考えることにする。

住居費は、高齢者大半が持ち家であり、住居維持のための費用は節約が難しいと思われる。

光熱・水道、家具・家事用品、被服履物の項目は節約できる部分があると思われる。

しかし、今後、消費税のアップや価格上昇の可能性を考えると、ひとまず、節約できないと考えておく。

保健医療費は、そもそも節約の対象になりにくい。

教育費は、金額が400円前後で、これも節約の対象になりにくい。

そうなると、節約の対象と考え得るのは、『交通通信』、『教養娯楽』、『その他支出』の3項目になる。

交通通信』について、『年金だけでも暮らせます』には、大手携帯会社から格安スマホへの乗り換えで、差額の4919円、節約できると書かれている。

高齢者のスマホの個人保有率は、2017年で、50代より若い世代では約90%なのに対して、60代44.6% 70代18.8%、80歳以上6.1%ということなので(http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h30/html/nd142110.html)、

高齢者での節約効果については疑問が残るが、書かれている通りにすれば、ここでは、二人で約1万円節約できることとする。

教養娯楽の項目は、単純に半分の金額にできるとして、月約1万2000円、節約する

その他“支出の項目には、生命保険料、交際費、こづかい、が含まれている(家計調査平成28年報 付録8 収支項目分類表 https://www.stat.go.jp/data/kakei/2016np/pdf/fr7.pdf)。

生命保険の世帯主年齢別年間払込保険料は、65歳以上で30万円前後(「平成30年度 生命保険に関する全国実態調査」 https://www.jili.or.jp/press/2018/pdf/h30_zenkoku.pdf)なので、月にすると、約2.5万円になる。

家計調査では、“その他”支出の半分は交際費(約2万5000円)となっており、生命保険料の2.5万円と合計すると、それでほぼ5万円となる。

そうなるとすると、家計調査の“その他”項目の中の“こづかい”は実質ゼロということになる。実態とは違うようにも思えるが、ここでは、生命保険料をゼロ、つまり、毎月2万5000円、節約できることにする。

節約生活したら、年金だけで暮らせるか?

必要老後資金を計算する時の前提条件

ここから、上記した節約を実行したら、年金だけで生活できるか計算していくことにする。

計算方法は、“19.とりあえずエクセルで簡易シミュレーションしてみたら、必要老後資金は2500万円だった。”(https://mfworks.info/2019/03/24/post-617/)と同じように、エクセルを使って表計算することにした。

まず、計算をするために、設定した前提条件を整理した。

A.世帯の設定

高齢者2人世帯、二人とも現在66歳。二人とも90歳まで25年間生きる。年金収入のみで、妻は、国民年金のみ受給されている。持ち家で、二人暮らし。

B.収入の設定

現時点では、66歳世帯の平均的な額の年金を受け取っており、今後、90歳までの25年間かけて徐々に支給額が減り(年0.93%減)、90歳時点では、支給額が現在の約8割(2割減る)の水準となっていると仮定した。

C.支出の設定

C-1.非消費支出の設定

今後25年間、現在と変わらないと設定した。

C-2.消費支出の設定

上記した高齢者でも節約可能な項目として、交通通信費は月1万円節約、教養娯楽費は半分に節約、その他支出は生命保険料月2万5000円節約できるとした。

ここで、消費支出は、高齢者の年齢が高くなると減るという(表2. 詳しくは、18.老後のお金の不安;毎月の生活費はいくらかかるか? https://mfworks.info/2019/03/04/post-543/)。

表2

 世帯主年齢  支出(月;円)
 66~69  264,661
 70~74  243,416
 75~90  215,151

(注)”世帯主の年齢階級別家計支出(二人以上の世帯)-2017年-”、http://www.stat.go.jp/data/kakei/sokuhou/nen/pdf/gy02.pdf、から抽出。

70~74歳と比べて、75歳以上では、消費支出額が月2万9265円少ない

表1では、世帯主年齢の区分が、70~90歳となっているが、正確な計算をするためには、70~90歳を70~74歳と75歳~90歳の2つに分け、75歳以上では、消費支出が70~74歳と比べて、約3万円減るとすべきである。

そこで、75歳~90歳については、約3万円、食費で節約できると仮定した。

上記した収入と支出の詳細を表にまとめた。

A.66歳時点での収入(毎月、単位;円)

表3

年金  145,557
   56,699
その他              0
合計    225,317

(夫;65歳の平均厚生年金受給額、妻;65歳の平均国民年金受給額、https://mfworks.info/2018/11/16/post-150/

B.支出(毎月、単位;円)

表4

      世帯主年齢
66~69 70~74 75~90
非消費支出   32,016   29,292   24,747
消費支出 合計 200,430 188,046 158,781
食費   70,058   68,065   38,800
住居   14,853   14,115   14,115
光熱・水道   21,635   21,191   21,191
家具・家事用品   10,273     9,570     9,570
被服及び履物     7,465     6,850     6,850
保健医療   14,995   14,850   14,850
交通通信   18,524   13,998   13,998
教育        458        360        360
教養娯楽   12,271   11,581   11,581
その他   29,898   27,466   27,466

(注)”世帯主の年齢階級別家計支出(二人以上の世帯)-2017年-”、http://www.stat.go.jp/data/kakei/sokuhou/nen/pdf/gy02.pdf、から抽出。

上記した設定条件で、現在66歳の二人暮らしの夫婦が90歳まで生きたとした場合の、25年間の総収入と総支出を計算してみた。

必要老後試験計算結果

結果は、表5のようになり、収支計算は、113万円の黒字となり、年金だけで生活できるという結論になった。

表5

  万円
収入 年金収入    6,056
支出 非消費支出     805
消費支出    5,139
支出合計    5,944
収支(収入-支出)       113

節約すれば、本当に年金だけで生活できるのか?

計算上は、交通通信費(月1万円)、教養娯楽費は半分、その他支出(生命保険料月2万5000円)を節約し、75歳以上になったら、さらに月3万円節約すれば、年金だけで生活できるという結論になる。

では、実際に上記したような節約方法を実行できるのだろうか?

節約を実行した場合の毎月の支出額は、表6のようになる。

表6

 世帯主年齢  消費支出(月;円)
   66~69    200,430
   70~74    188,046
   75~90    158,781

つまり、年金だけで暮らそうとしたら、60代では月20万円以下、75歳以上では、月16万円で生活しなければならない。

例えば、節約後の“その他支出”は、ほぼ交際費だけになり、“こづかい“がない生活となる。

”こづかい“を確保しようとすると、交際費を減らす、交通通信費をさらに減らす(例えば、携帯電話は持たない)、教養娯楽費をさらに減らすという方法が考えることになる。

どの方法を採用したとしても、日々のつきあいや、楽しみを減らすことになる。

そう考えると、今回のシミュレーションからは、年金額が25年間で2割減となった時、生活費を切詰めたら、年金だけで“生存”はできるけど、生きているだけの生活になる、という結論になってくる。

ただし、“生存”に必要なお金は賄えるという結論も要注意である。

それは、今回のシミュレーションでは、今後25年間の年金収入の変化は考慮しているが、支出の変化は十分に考慮できていない部分があるためである。

一つは、介護費用が見込まれていない点である。

現在の介護費用の平均額は、毎月7万9000円という(15.老後のお金の不安;最低でも介護費用500万円は見ておいた方がよい。 https://mfworks.info/2019/01/19/post-146/)。介護が必要な状況になると、年金だけで生活することは難しくなる。

さらに言えば、自分の介護費用よりも、親の介護費用をどうするかが先に問題となることもあり得る(16.老後のお金の不安;介護費用には自分だけでなく親の分も考えておく

老後資金を考える時、子供のことは考えるが、自分の親にかかる費用は考慮されない。 しかし、人生100年時代を生きているのは、親も同じ。自分のことを考える前に親の介...
)。

もう一つは、今後25年間、税金や社会保険料、医療費や介護費用が大きくは変わらないという前提で計算している点である

(24.『年金だけでも暮らせます』という本に書かれている医療費の話
https://mfworks.info/2019/05/22/post-1370/

25.『年金だけでも暮らせます』という本に書かれている介護費用の話
https://mfworks.info/2019/05/28/post-1412/)。

例えば、今後、生活費が10%アップすると仮定すると、たちまち赤字に転落してしまい、“生存”も難しくなる。

最後に追記しておきたいのは、入院や住宅の大掛かりな補修、葬儀費用、相続税などは、通常は生活費には含まれない一時的な出費である。

節約生活したとしても、一時的な費用を生活費から捻出することはできないので、一時的な出費には貯蓄で対応する必要がある。

読んでいただき、ありがとうございます。

最後に1曲、Sigur Ros の”Olsen Olsen”

Sigur Rós(シガーロス)は、アイスランドの3人組バンド。
バンド名”Sigur Rós”は、アイスランド語で「勝利、薔薇」の意味
http://www.nu-nobettenn.com/entry/sigurros-osusume)。
曲名”Olsen Olsen”の歌詞は、造語で造られているようです
https://petitlyrics.com/lyrics/981265)。

Sigur Ros – Olsen Olsen

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする

error: Content is protected !!