22.『年金だけでも暮らせます』という不思議な本を見つけた

荻原博子さんという方が、今年の1月に発売された『年金だけでも暮らせます』(https://www.php.co.jp/books/detail.php?isbn=978-4-569-84205-9)という本を偶然見つけ、タイトルに惹かれて購入して読んでみた。

老後資金について一応の知識を持っていると思っていたが、この本に書かれている『年金だけでも暮らせます』という結論に至る理屈がよく理解できなかった。

一番理解できなかったのは、お金についての本のはずなのに、「年金だけで暮らせる」という結論に至る数字的な道筋(金銭的シミュレーション)が明確に書かれていないことだった。

それでも、『年金だけでも暮らせます』と断言している、とても不思議な本だった。

書いてあることが間違っていると言う意味ではない。

本当に年金だけで暮らせるのなら、将来のことを不安に思わなくてよい。

この本に書かれている「年金だけでも暮らせ」る理由が無理のない考え方なのか、これまで調べてきた結果を踏まえて、著者の主張を確認したいと思うようになった。

なお、この本から引用した場合には、引用箇所のページ数を示した。

本に書かれている「年金だけで暮らせる」方法

「年金だけでも暮らせます」の題名のサブタイトルは、「決定版・老後資金の守り方」となっており、冒頭の「はじめに」には、「本書は、すでに年金生活を送っているだけでなく、これから定年を迎える50代、60代の方々にも知っていただきたい情報を網羅しています。

正しい知識を得て、意識を変えていけば、年金だけでも十分暮らせることを実感していただけるでしょう。」(p.6)と書かれている。

そして、「はじめに」の部分のサブタイトルは、「-人生100年時代」も“やらないこと”を決めれば年金だけで生きられる」となっている。

「年金だけでも十分暮らせる」ようなるためには、”定年後に破綻する人の特徴として、「ムダなこと」をやっている(ムダな出費が多い)ことが挙げられます。大事なのは、やるべきことを決めること。そしてそのためには、やらないことを明確にすることが大切です”(p.5)ということのように思われる。

具体的には、”「定年時に3000万円の貯蓄が必要」と言われますが、その条件を満たす人はごく一部、しかし、老後を年金だけで暮らす「勝ち組」も、実は多く存在します。この人たちは何も特別なことはしていません。

・正確な情報を得て、現行の制度を活用すること

・出費を抑えて、現金を減らさない

この2つを徹底しているだけです。(p.3~p.4)と書かれている。

将来、年金を受けとる人は、給付額が確実に減るので、今から節制と貯金で準備しておく

一方で、「今の40代は将来、年金をもらえるのか?」について、「年金の受給開始が20年後という今の40代は、月15~18万円くらいで生活する心算でいたほうがいいでしょう。」という説明があり、「今の40代以降は、給付額が減ることはほぼ確実。今から節制と貯金を意識すること。」(p.42)と書かれている。

年金生活者は、支給される年金の範囲内で生活するようにすれば、「年金だけでも暮らせます」。

そして、40代より若い世代だけでなく、50代や60代も含めた、この先、年金生活を迎える人は、年金だけでは生活できない可能性が高いので、今から出費を抑えて、貯金に励みなさいと書かれている。

ある意味、当たり前のことを言っているように思われた。

年金だけで暮らすためには出費を抑える

年金だけでも暮らせるのは、現在、年金生活を送っている人、それでサブタイトルが「決定版・老後資金の守り方」となっている理由が分かった。

「年金だけでも暮らせ」るのは、現在、既に年金生活に入っている人だけなのに、誰でも「年金だけで暮らせるようなタイトルがつけられており、不思議なタイトルをつけるなと思った。

もう一つ不思議に思ったことは、年金だけで生活できるはずの年金生活者について、収入の年金額については具体的な数字が示されているが、支出については、個別の支出項目については具体的な数字が示されているが、全体として支給される年金の範囲内におさまるのかが示されていないことだった。

つまり、書かれているようにして、出費を抑えたら、年金だけで暮らせるのか分からなかったからである。

また、私には実際にできるとは思えないような出費の削減方法が書かれていた。

「こんなにある!生活費と固定費の落とし穴」(p.109)には、いろいろな出費を抑える方法が、書かれている。

生活費について、例えば、食費について、総務省の家計調査の数字は、「すべて合わせた平均値で」、しかも、「調査項目がとても多く、比較的余裕があって、優雅な老後を送っている人たちが多く協力しているから」(p.98)、統計数字は、多くの人の実情とは違うのではないか(家計調査の食費は多すぎないか)という趣旨のことが書かれている。

より具体的に、「家計調査の平均値では、高齢者2人の食費が月に6万4444円」(p.97)となっているが、「お米や野菜は親戚の農家からもらうので月の食費は3万円くらいという慎ましやかな老人世帯も、すべて合わせた平均値だからです。」(p.98)と書かれている。

少なくともこの部分は、論理的な矛盾があるように感じられる。

優雅な老後を送っている人が多く協力しているというのなら、食費月3万円くらいの人は調査に協力していない可能性が高いと思うので、平均値には含まれないはずである。

加えて、p.98に書かれている月3万円の事例は例外的なケースであると思うので、調査にそうした世帯が含まれていたとしても、平均値にはほとんど影響しないと考えるのが、通常ではないかと思う。

もう一つ、家計調査では、高齢者世帯と言っても年齢別の調査結果が公開されている。

以前に取り上げた(18.老後のお金の不安;毎月の生活費はいくらかかるか?

https://mfworks.info/2019/03/04/post-543/)が、調査結果では世帯主年齢が上がると、食料支出は減っていくが、月3万円はあまりにも少ない。

食費月3万円ということは、1日あたり1000円である。

高齢になれば、身体的に衰えて、自分で調理できなくなることが誰にでも起こりうると思う。

そうした場合には、調理済食品の購入や配食サービスに頼らざるを得なくなる。そうなった場合、1日2人の食費を1000円におさめることは非現実的なことではないかと思うし、かえって、増える場合もあり得るのではないかと思う。

第3章の「生活の「意識改革」で出費を抑えなさい -年金生活の大原則-」を読むと、将来年金をもらう人たちへのアドバイスは多いが、本書の主題であるはずの年金生活者が、どうやったら支給される年金の範囲で生活できるのかという視点からは難しい内容と思った。

年金生活者が「意識改革」したら、本当に、年金だけでも暮らせるのか?

繰り返しになるが、年金生活者が「意識改革」したら、本当に「年金だけでも暮らせます」という考えを裏付ける数字はどこにも書かれていない。

「はじめに」には、”「定年時に3000万円の貯蓄が必要」といわれますが』(p.3)と書かれていたり、第3章の『銀行が煽る「老後不安」の正体』には、銀行の窓口に相談に行くと、「お2人であと30年生きるとすれば、1962万6840円足りなくなります。・・・”(p.90)と言われますと書かれている。

著者の主張は、「年金だけでも暮らせます」である。

そうならば、上記の銀行の言うことは不適切であることを、数字をもって示せば明確だと思うのだが、どこにも書かれていない。本当に不思議な本である。

そう考えてくると、本書の「はじめに」の部分に、”老後を年金だけで暮らす「勝ち組」も、実は多く存在します。この人たちは何も特別なことはしていません。”と書かれているが、単に年金額が多いので、年金だけで暮らせているのではないかとの疑問が湧く。

いずれにしても、主張されている「年金だけでも暮らせます」の根拠となる数字が示されていないので、これ以上考えようがない。

これまで自分で統計資料をもとに、様々な前提条件を設定して、必要な老後資金をシミュレーションしてきた。

この本にも、高齢者は「生活費はそれほど必要でないかもしれない」と書かれているが(必要でないとは書かれていない)、実際に統計資料でも高齢になるほど、生活費は少なくて済むという調査結果となっている。

(18.老後のお金の不安;毎月の生活費はいくらかかるか?

https://mfworks.info/2019/03/04/post-543/)。

この前提でシミュレーションした結果でも、老後資金は2000万円~3000万円程度は必要という結論になった。

(19.とりあえずエクセルで簡易シミュレーションしてみたら、必要老後資金は2500万円だった。 https://mfworks.info/2019/03/24/post-617/

20.将来の年金減額や税などの負担増加を考慮して、老後資金をシミュレーションしてみた

https://mfworks.info/2019/04/10/post-1038/

21.老後のお金の不安 ~一人暮らしを想定して老後資金をシミュレーションしてみた~

https://mfworks.info/2019/04/17/post-1106/

自分で行ったシミュレーションでは統計数字をもとにしたが、この本に書かれているような「意識改革」したら、本当に年金だけで暮らせるのか、金額的なシミュレーションができるので、今後、結果をアップするつもりである。

この本には、第1章に、年金の基礎知識として、”年金が「破綻」しないほんとうの理由”や第5章に”膨らむ介護・医療費のお悩み解決法”が書かれている。

本ブログでは、これまで年金や介護について現状や将来について取り上げたが、この本に書かれて年金や介護についての考え方は、自分で調べて得られた結論とはかなり異なる。

著者は、すでに年金生活を送っている人は、国の制度を利用したり、出費を抑えられれば、「年金だけで生きられる」。しかし、40代は年金だけでは生活できない可能性が高いので、今から、節制と貯金をしなさい、ということを言っているのだと思われる。

「生きられる」に下線をしたのは、タイトル通りに「暮らせる」とは書かれていなかったためである。私には、「暮らせる」=「生きられる」(生存できる)という意味に取れたからである。

次回以降は、年金と介護について、この本に書かれていることを考えてみたい。

読んでいただき、ありがとうございます。

最後に1曲、Kiriyama Familyの”About You”

Kiriyama Family(キリヤマ・ファミリー)は、アイスランドの音楽グループ。

バンド名は日本への憧れからつけたとのこと(https://matome.naver.jp/odai/2138103501575589901/2138158059175622203)。

オフィシャル・ウエブ・サイトは、http://kiriyama.family/、フェイスブックはhttps://www.facebook.com/kiriyamafamily/

“About you”は、「本当のことを話す時が来たと思う」で始まる恋愛ソング。

youtubeの曲画面の下に、歌詞が紹介されている。

Kiriyama Family – About You

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする

error: Content is protected !!