”人は誰でも最後は一人” ~ひとり老後の生活費~ 介護費用を見込んでおく

ひとり老後で今後一番心配な支出が介護費用医療費。

公的介護サービは自己負担額の上限が設けられているが、公的介護サービス以外の介護に係る費用も含めると、現在でも介護状態になった場合の出費が大きなものである。

既に介護保険料や自己負担和割合の引き上げなどが検討されており、今後、公的介護サービスを受けるための費用が増加すると考えておいた方がよい。

医療費は一時的な出費だが、介護費用は、老化に伴って発生する出費であり、避けて通れない費用である。今後、老後資金に占める介護費用の割合は、医療費以上になる可能性を考慮しておく必要がある。

長生きすれば、医療よりも介護のウエートの方が大きくなる

100歳時代と言われるような長生きの時代に“ひとり老後“となった場合にますます心配なのは、”病気“と”介護”ではないでしょうか。

病気せずに長く健康であること、健康寿命を伸ばすことが、医療関連支出を抑える上で大切になります。

しかし、平均寿命と健康寿命の差(平均寿命-健康寿命)は10年間でほとんど縮まっておらず、平均寿命が伸びた分だけ、介護費用は増えていく可能性が高いと思われます(15.老後のお金の不安;最低でも介護費用500万円は見ておいた方がよい。https://mfworks.info/2019/01/19/post-146/)。

ところで、“病気”は、医療の進歩で新たな治療法が開発され、身体機能が回復する可能性があるのに対して、老化による身体の衰えは現時点では治療するすべがありません。

長生きすればするほど身体機能は低下し、最終的には介護が必要になります。

そう考えると、人生100年時代になれば、“病気”より“介護”の問題が深刻になると予想されます。

高齢者の生活機能についての調査では、下表のように、年齢とともに介護サービスの受給割合は多くなっています。そして、要介護者の60%以上は一人で外出できないということです。

年齢階級別人口に占める介護サービスの受給割合(要介護、要支援合計)

年齢 受給割合
75~79歳 10%
80~84歳 20%
85~89歳 40%
90~94歳 60%
95歳以上 80%以上

実際、介護にどのくらいの費用がかかるか?

介護に関連する支出は、介護保険料と介護サービス費用の2つに大別されます。

介護保険料は、それぞれの市町村における所得段階ごとの高齢者の数や、介護サービスの必要量などによって、それぞれの市町村が設定します。

そして、介護保険料の基準額は、3年間で収支が合うように、3年ごとに見直しが行われます。直近では、平成30年度に改定されています。

東京都渋谷区の事例では、「所得基準」を16段階に分類し、「基準額」に段階に応じた係数を掛けて各個人の保険料の年額が算出されています。

例えば、真ん中あたりの第6段階~第8段階の保険料は以下のようです。

合計所得金額 介護保険料(年額)
第6段階(125万円未満)  75,800円
第7段階(125万円以上250万円未満)  85,800円
第8段階(250万円以上375万円未満) 114,400円

(介護保険料とは?40歳からの納付額(所得別の一覧表)https://www.minnanokaigo.com/guide/care-insurance/fee/)。月額に換算すると、月1万円程度支払わなければならないことになります。

一方、介護サービス費用としては、まずは、介護認定者が公的介護保険サービスを享受した時に支払う利用料があります。

在宅サービス(ホームヘルプサービス、介護器具レンタル)、通所サービス(デイサービス)、施設サービス(介護老人福祉施設、介護老人保健施設)を利用した費用が該当します(https://www2.fgn.jp/mpac/_data/4/?d=A1590)。

2018年度介護給付等実態調査の概況(厚生労働省)によると、2018年4審査分の介護度別平均負担額(1割負担者)は以下の金額とのことです(【FPが考察】介護にかかる費用はいくら?負担を減らす方法は? https://hokench.com/article/retirement/466/)。

介護度 平均負担月額(1割負担者)
要支援1  1,335.8円
要支援2  2,204.9円
要介護1  7,418.4円
要介護2 10,398.0円
要介護3 15,628.9円
要介護4 19,049.2円
要介護5 23,649.8円

85歳以上で、要支援要介護の認定を受けている人の割合は、以下のようです。

介護度 割合
非認定者 40.30%
要支援1  6.55%
要支援2  7.25%
要介護1 11.85%
要介護2 10.64%
要介護3  8.83%
要介護4  8.56%
要介護5  6.02%

要介護1~要介護5の合計は、37.34%になります。

これらの人たちは、介護サービスを受けるために、月1万円程度以上支払っていることになります。

上記の介護サービスの費用は、公的な介護保険を利用した時に支払う利用料です。

しかし、支払っているのは、実際に利用した時に発生する費用の1割だけです。

実際にかかる介護費用は、要介護の状態、介護を受ける場所や住宅環境、家庭の事情などによってかなりバラつきますし、介護保険でカバーできない介護費用も発生します。

在宅介護にかかる費用(介護サービスへの支出と介護サービス以外の支出の合計、2016年6月分)が、以下の金額だったとのことです。

介護度 在宅介護費用(月額)
要介護1  3.3万円
要介護2  4.4万円
要介護3  5.9万円
要介護4  5.9万円
要介護5  7.5万円

(在宅介護のお金と負担 2016年調査結果

http://kakeiken.jp/old_kakeiken/jp/research/kaigo2016/2016result1.html)。

また、平成27年度 生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査」によると、平均額は1カ月7.9万円となっています(介護費用の月額平均は約8万円!?平均総額はいくら? https://www.hoken-buffet.jp/news/knowledge/longterm_avecarecosts/)。

これらの金額を見ると、公的介護保険ではカバーされない介護サービス以外の支出が大きいことが分かります。

病気による入院は退院すれば医療費の負担は減りますが、病気によって介護が必要な状態になると、医療費に代わって、介護費用が大きな負担になります。

退院後の行き先は、「家庭」が最も多い(83.8%)ようですがで、「他の病院・診療所」「介護老人福祉施設」「社会福祉施設」が微増する傾向にあるようです。

施設入居となれば、介護サービス以外に、施設入居費用(部屋代、食費等)の負担も考えなければなりません。

医療費は一時的な出費ですが、介護費用は、いったん介護状態になったら死ぬまで継続的に支払わなければならない出費となり、老後資金としては、医療費よりずっとウエートが高いことが分かります。

介護費用は、社会保険制度でなんとかなるのか?

多くのフィナンシャルプランナーが共通して指摘するのは、社会保障制度が充実しているから、医療費や介護費用は自己負担額の上限が設定されており、実際にはそんなにかからないということです。

この考えについて、以前、検討したことがあります

(24.『年金だけでも暮らせます』という本に書かれている医療費の話

https://mfworks.info/2019/05/22/post-1370/

25.『年金だけでも暮らせます』という本に書かれている介護費用の話

https://mfworks.info/2019/05/28/post-1412/

老後のひとり暮らしの費用は1カ月いくら? 高齢者の生活を支えるお金の話

https://www.sumirin-ht.co.jp/oyakudachi/couple/005148.html)。

介護費用について言えば、介護保険サービスに対して自己負担額の上限があるのは事実ですが、介護保険でカバーされないサービスを受ける必要がある場合や施設入居する必要が出た場合には、話が違ってきます。

もう一つ、現在の介護保険制度がこの先もそのまま維持されるとい仮定に基づいた話です。

しかし、現実は動いています。

既に認定基準の運用が厳しくなっているように思われますし、制度運用の見直しが進められています。

たとえば、一部の低所得高齢者が、介護施設を利用する際の食費の自己負担額を引き上げたり、 高所得世帯の場合は、介護サービスを受ける際の自己負担の月額上限を引き上げると報道されています(https://news.yahoo.co.jp/articles/287b2d654263074a034ceaeece3f51f0a9a13b40)。

また、今回は見送られましたが、2割への引き上げを目指すとのことです

また、別の報道では、2割負担や3割負担の所得水準の見直しを行い、2021年の制度改正で、一定の所得がある人を対象に自己負担割合を1割から2割や3割負担の対象者が拡大される方向での検討や、現在1千万円以上の預金がある人は、補足給付対象外であるが、現在その対象に含まれていない土地・建物などの資産も勘案することが検討されているということである(2021年介護保険法改正 次期介護保険制度改正(2021 年度から施行)に向けた議論 第98回 2020年介護保険制度改正に向けた給付と負担のテーマ https://www.uchida.co.jp/uplus/kikuchi/20191021.html)。

介護保険制度は維持されたとしても、今後の要介護者の増加や介護士の絶対数不足を考えると、公的介護保険制度で利用できるサービスが制限されたり、自己負担額が増加する可能性が高いと考えるのが普通ではないでしょうか。

最後に一曲、坂本九さんの”明日があるさ”

坂本九 ”明日があるさ”

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