前回は、統計資料の数字をそのまま使って、簡単な式で老後資金のシミュレーションした(https://mfworks.info/2019/03/24/post-617/)。
しかし、統計数字は過去の状況を反映するものの、将来にわたって、過去の状況が継続するとは限らない。むしろ将来を過去とは違う展開になると考えるのが普通と思う。
特に老後資金のように、20~30年先まで考慮しなければならない長期間を計算する場合は、前提条件の置き方によって、結果が大きく左右されることになる。
シミュレーションにおいて一番大切なのは、環境変化を予測し、その変化を考慮してシミュレーションすることだと思う。
今回は、最初の部分は統計数字を使うが、それに続く期間は、将来の環境変化を考慮したシミュレーションを試みたい。
Contents
シミュレーションする時の条件設定
前回と同様に、夫、妻との66歳の同年齢で、持ち家の2人暮らしの世帯を想定する。
2人とも90歳まで生き、86歳~90歳までの5年間は2人とも介護を受けることになると仮定する。
前回より、詳細にシミュレーションできるように、収入は、夫の年金収入と妻の年金収入に分けることにした。また、消費支出も、細かい項目に分けることにした。
具体的には、収入と支出の項目と、各項目の数字は統計資料の数字をもとに、下表のように細かく設定したが、興味がなければ、この部分を飛ばして、ケース1のシミュレーション結果に進んでください。
シミュレーションの設定条件
(1)66歳時点での収入(毎月、単位;円)
年金 | 夫 | 145,557 |
妻 | 56,699 | |
その他 | 0 | |
合計 | 225317 |
(夫;65歳の平均厚生年金受給額、妻;65歳の平均国民年金受給額、https://mfworks.info/2018/11/16/post-150/)
(2)支出(毎月、単位;円)
世帯主年齢(歳) | |||
65~69 | 70~90 | ||
非消費
支出 |
合計 | 32,016 | 32,016 |
消費
支出 |
食品 | 70,058 | 68,065 |
住居 | 14,853 | 14,115 | |
光熱・水道 | 21,635 | 21,191 | |
家具・
家事用品 |
10,273 | 9,570 | |
被服履物 | 7,465 | 6,850 | |
保健医療 | 14,995 | 14,850 | |
交通通信 | 28,524 | 23,998 | |
教育 | 458 | 360 | |
教養娯楽 | 24,541 | 23,162 | |
その他支出 | 54,898 | 52,466 | |
合計 | 247,701 | 234,628 | |
介護
支出 |
0 | 79,000* | |
その他支出 | 0 | 0 |
*介護期間は5年間で計算する。
(注)
非消費支出;”高齢無職世帯の世帯主年齢層別の家計収支2017年”、http://www.stat.go.jp/data/topics/topi1034.html、から抽出。なお、上表の”70歳~90歳”の数字は、”65歳~69歳”のデータを使用した。
消費支出;”世帯主の年齢階級別家計支出(二人以上の世帯)-2017年ー”、http://www.stat.go.jp/data/kakei/sokuhou/nen/pdf/gy02.pdf、から抽出。なお、上表の”65歳~69歳”と”70歳~90歳”の数字は、それぞれ”65歳以上”と”70歳以上”のデータを使用した。
介護支出;介護費用の平均額、https://mfworks.info/2019/01/19/post-146/)
上表には、”その他の支出”として、下の表のような項目もあると考え、計算用のエクセル表には入れることにした。ただし、これらの支出は、世帯による違いが大きいと思われたので、今回のシミュレーションでは、考慮しないことにした。
(3)その他支出
住居修理 | – |
イベント費用 | – |
親関連子供関連費用 | – |
葬儀関連費用 | – |
相続税 | – |
その他特別費用 | – |
合計 | – |
*今回は、いずれも考慮しなかった。
これらに加えて、前回同様、医療費(250万円)を別に見込むことにした。
(https://mfworks.info/2019/03/24/post-617/)。
ケース1;90歳まで現状が継続される場合
ケース1として、66歳~90歳の間、現状がそのまま継続維持され、収入、支出とも、上表の数字に変化がなかった場合の収支計算をしてみると、3000万円程度の不足、つまり、必要老後資金は3000万円程度と言う結論になった。(計算したエクセル表は大きいので、載せるのを省略した。)
ケース1;シミュレーション結果(66歳~90歳)
収入合計 | 6,068万円 |
支出合計 | 8,830万円 |
収入合計-支出合計 | -2,762万円 |
収入合計-支出合計
ー医療費(250万円) |
-3,012万円 |
しかし、年金収入がこの先25年間現在と同額が維持されるとは考えにくい。
そこで、まず年金収入が減るケースをシミュレーションした。
ケース2;年金が25年間かけて約10%減額される場合
厚生省の資料を調べてみると、現在の年金の所得代替率62%で、2040年頃は、50%程度と予測している(https://mfworks.info/2018/11/30/post-170/)。
所得代替率(https://www.mhlw.go.jp/nenkinkenshou/verification/index.html#)の変化が、年金の給付率と同じとは言えないが、ここでは、便宜的に25年後に現在の給付額より約11%減るように、つまり、25年後の年金は現在の89%程度の金額になるように、毎年減額されると想定した。
この想定の場合の年金減額率は、年0.5%となる。
減額された時の年金額がイメージしやすいように、下表に具体的な数字を示した。
年金額の変化(年0.5%減額時、減少率11.3%)
年金 | 66歳 | 90歳 |
夫 | 1,746,684 | 1,548,704 |
妻 | 680,388 | 603,268 |
合計 | 2,427,072 | 2,151,972 |
一方の支出は、現在の状況が継続し、変化がないと仮定した。
シミュレーションした結果は、下表のようだった(計算したエクセル表は大きいので、載せるのを省略した)。
必要な老後資金は、ケース1より、400万円近く、多くなった。
ケース2;シミュレーション結果(66歳~90歳)
収入合計 | 5,717万円 |
支出合計 | 8,830万円 |
収入合計-支出合計 | -3,113万円 |
収入合計-支出合計
ー医療費(250万円) |
-3,363万円 |
ケース3;年金減額と負担増加の両方が起こる場合
ケース2では年金が減額されると想定してシミュレーションしたが、年金の減額と同時に、年金財源の確保のために、税負担や消費税アップによる価格の上昇も起こる可能性が高いと思われる。
ケース3では、年金減額と同時に、支出の変化も起こると想定して、シミュレーションした。
想定した変化を下表にまとめた。
ケース3の設定条件(ケース1との比較)(66歳~90歳の間の想定変化)
ケース1
現状維持
|
ケース3
年金減少 負担増加 |
||
年金収入 | 変化なし | 毎年0.5%減少 | |
非消費支出 | 変化なし | 75歳時1割アップ | |
消費支出 | 食品 | 変化なし | 変化なし |
光熱水道 | 変化なし | 75歳時2割アップ | |
保健医療 | 変化なし | 75歳時倍額 | |
交通通信 | 変化なし | 変化なし | |
介護支出 | 変化なし | 75歳時2割アップ |
支出の変化は、非消費支出、消費支出、介護支出のいずれも増加すると考えた。
非消費支出(税、社会保険料など)は、高齢者の人口の増加に対応して上がると考えた。
75歳以上人口のピークは2040年頃で2400万人程度と推計されている。
しかし、現在の1800万人程度から、2030年頃までに現在の約1.2倍、2200万人程度まで急増すると予想されている(https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2018/html/gaiyou/s1_1.html)
この急増に対応するために、10年後の75歳時に税金と社会保険料が1割アップすると想定した。
支出は、非消費支出と同じ理由で、消費税が上がると想定されるが、食品は適用除外、交通通信は、通信費が安くなる可能性があると考えて、現状維持とした。
しかし、光熱・水道のインフラの老朽化による設備維持費の増加と消費税アップで、10年後に2割上昇、健康保険の自己負担割合は、高齢者の増加によって、1割から2割まで上がると想定し、保険医療は倍額になると想定した。
また、介護保険利用時の負担額も、高齢者の増加に見合う程度、1.2倍、には上がると想定した。
上記条件で計算すると、ケース1とでは、90歳時点で収入と支出が違ってくるが、その違いを下表にまとめてみた。
年間で年金収入が30万円近く減り、支出は60万円ほど増えることになる。
ケース1とケース3;90歳時の収入と支出の比較(年間、単位;円)
ケース1
現状維持
|
ケース3
年金減少 負担増加 |
||
年金収入 | 2,427,072 | 2,151,972 | |
消費
支出 |
食品 | 456,780 | 456,780 |
光熱水道 | 254,292 | 305,150 | |
保健医療 | 178,200 | 356,400 | |
交通通信 | 277,944 | 277,944 | |
介護支出 | 1,896,000 | 2,275,200 |
ケース3のシミュレーション結果を、ケース1やケース2と比較できるように、一覧表にまとめた。(ケース3で計算したエクセル表も大きいので、載せるのを省略した。)
年金収入だけでは、4000万円程度、不足するという結果だった。
ケース1とケース3の必要老後資金の比較(単位万円、万円以下四捨五入)
ケース1
現状維持
|
ケース3
年金減少 負担増加 |
|
収入合計 | 6,068 | 5,717 |
支出合計 | 8,830 | 9,448 |
収入合計
-支出合計 |
-2,762 | -3,730 |
収入合計
-支出合計 ー医療費 |
-3,012 | -3,980 |
今回設定した条件でのシミュレーションでは、必要な老後資金は、年金減少で約400万円程度、さらに負担増加が重なると約1000万円増加するという結果になった。
しかし、条件設定を変えれば、当然、計算結果も変わってくる。
冒頭に書いたように、環境変化を織り込んでこそ、シミュレーションと言えると思っている。
今回設定した条件が適切かどうかは、読まれた方の判断にお任せします。
次回は.より現実的な場面設定として、一人暮らしを想定して、シミュレーションした結果を紹介したい。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
最後に1曲、Lene Marlin ”Sitting Down Here”
Lene Marlinは、ノルウェーのシンガーソングライター(http://www.cube-music.com/f-artists/woman/lene_marlin/)。
歌詞は、https://www.musixmatch.com/ja/lyrics/Lene-Marlin/Sitting-Down-Here
“I’m sitting down here But Hey you can’t see me”のフレーズで始まるこの曲は、
ちょっと切ない恋の唄。
Lene Marlin – Sitting Down Here